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飯田哲也「RE100への途」

RE100とEV②:テスラとEV三国志

2022.01.24

20年前は、次代のクリーンエネルギー自動車の動力を巡る「三国志」があった。水素燃料電池、バイオ燃料、そして電気自動車(EV)の「三国志」だ。それぞれにドラマがあったが、この「三国志」は、世界中がEVレースに加速する現在、EVの完全勝利に終わった。

「クリーンエネルギー自動車動力の三国志」でEVに勝利をもたらしたのは、間違いなくテスラである。これを櫛田健児氏は「EVのペインポイント(痛い点)潰し」(注1)と呼んでいる(図1)。テスラは、「高くて不便でかっこ悪いがエコに良いから乗っている」(いわゆるエコダサい)象徴だったEVを、「クールなスポーツカー」にひっくり返したのだ。

 

図1 テスラによるEVのペインポイント潰し(出典:櫛田健児氏)

 

そして今、EVの中で新しい「EV三国志」が始まっている。ただし、テスラは「マラソンでは34 km地点を独走し、他は3km地点か、もしくはスタート地点で靴紐を結んでいる」(注2)と米証券アナリストが喩えるほど独走している。世界がようやくバッテリー投資を始めるずっと以前の2013年にギガ・ネバダを公表し、パナソニックとの提携を経て、2015年には着工・一部を生産開始している。さらに、垂直統合した自動車工場をカリフォルニア州、上海で次々と建設し、テキサスやベルリン工場も初期段階はすでに完成し、本格生産は許可を待つばかりだ。テスラは、それを前提に生産台数も毎年50%増を公約し、実際に達成してきている。それどころか、2026年頃にはトヨタやWVを抜き、2030年には年間生産台数で2千万台が視野に入っている。

 

 

 

生産台数だけではない。蓄電池の生産効率も乾式プロセスを導入して非常に効率が高く、新型の4680電池は世界最高水準の電池密度と低コストを誇る。リチウムやニッケルなどの資源も確保し、関連企業でリサイクル体制も整えている。また、本体の生産プロセスも、車体をアルミ合金で一体鋳造するギガプレスの導入で、部品点数とロボットの大幅な節約で、生産速度が従来の自動車メーカの3倍で1台あたりの利益も30%と群を抜く。AIスーパーコンピュータを用いた世界唯一の自動運転方式の導入、3ユニットに統合した電子制御装置(ECU)、販売ディーラ抜きの直接販売、遠隔自動アップデート(OTA)など、自動車産業に圧倒的な革新をもたらしている。

したがって、新しい「EV三国志」は、そのテスラを追いかける欧州、中国、米国の各企業による「三国志」である。テスラを追いかける筆頭は、ディーゼルゲート(ディーゼル排ガス不正事件)から挽回するためにEV化に疾走するフォルクスワーゲン(WV)だ。WVの昨年のEV生産台数は36万台と前年比で倍増させたが、テスラの93万6千台からは話される一方だ。CEOのディース氏は、テスラに追いつけない苦悩をインタビューで語っている(注3)。

米国の既存メーカは、GMのバーラ会長が「2025年までにテスラを追い越す」と豪語するが、同社のEVボルトのバッテリーが発火の恐れから全車リコールとなり、現在、販売するEVが1車種も1台も無い状況で、およそ不可能である。フォードは、WVと同様にテスラに危機感を持って全力で臨んでいるが、2021年は唯一のEVスポーツカーの販売がわずかに2万7千台で、前者の売上げが7%減となった。また、テスラを追いかけるEV新興企業も数多く、新規上場した企業もあるが、テスラほどにあらゆる分野を垂直統合している企業は見当たらない。

そうした中で、中国は注目に値する。自らも電池を生産するBYDは、昨年59万台(前年比230%増)のEVを生産し、テスラを追いかける。また、「中国のテスラ」と呼ばれるNIOは、昨年9万台(前年比109%増)と台数こそ少ないものの、テスラ同様にギガプレスを導入し、独自の自動運転・交換式バッテリーなども採用している。

そうした中で、残念ながら日本は、圧倒的に遅れている。昨年12月に豊田章男トヨタ社長が、鼻息粗く「4兆円の投資で2030年350万台のEV」と自ら主催したメディアイベントで発表したが、COP26などで「温暖化やEV化にもっとも後ろ向きの企業」との風評が広がったことを払拭するためのパフォーマンスにしか見えず、EVも蓄電池も未だに絵に描いた餅にすぎない。上記のマラソンの喩えでは、EV先行を活かせず3km地点で足踏みする日産、靴紐を結んでいるトヨタやホンダと見てよいだろう。

このままでは、半導体・家電・液晶などに続いて、日本の最大・最後の基幹産業である自動車産業が崩壊してゆくリスクも避けられないだろう。

[1] 櫛田健児「テスラの衝撃―EVの常識を覆した戦略」TECHBLITZ 2021年5月27日 https://techblitz.com/stanford_kushida_tesla/

[2] “Tesla Is Miles Ahead Of Others in the EV Race, This Analyst Says. The Stock Is Rallying” Businesshala 2022年1月22日 https://businesshala.com/tesla-is-miles-ahead-of-others-in-the-ev-race-this-analyst-says-the-stock-is-rallying/

[3] “How Volkswagen can reinvent itself as an EV company, with CEO Herbert Diess” The Verge 2022年1月18日 https://www.theverge.com/22888316/decoder-interview-herbert-diess-volkswagen-nostalgia-ev-self-driving

 



飯田哲也(いいだてつなり)エネルギー・チェンジメーカー 
国内外で有数の自然エネルギー政策のパイオニアかつ社会イノベーター。
京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。
東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。
ルンド大学(スウェーデン)客員研究員、21世紀のための自然エネルギー政策
ネットワーク(REN21)理事世界風力エネルギー協会アドバイザーなど国内外で
自然エネルギーに関わる営利・非営利の様々な機関・ネットワークの要職を務めつつ
国や地方自治体の審議会委員等を歴任。
「北欧のエネルギーデモクラシー」「自然エネルギー政策イノべーション」など著書多数。
1959年山口県生まれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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